保険業界のデジタルトランスフォーメーションは加速しています。商品開発のパーソナライズ、審査・保険金支払業務の自動化、内部オペレーションの効率化まで、データを基盤とする変化は業界全体に広がっています。
その中でも、補償(保険金支払)業務は損害率を直接管理する重要な領域です。しかし、刻々と変わる多様なデータを一つの基準で整理し、それを損害率の改善につなげることは容易ではありません。
顧客数が1,000万人を超える国内有数の保険会社、DB損害保険も同様の課題を抱えていました。指標の正確性と解釈の一貫性を確保し、データを「参照」ではなく「成果管理と意思決定」に活用するには、組織運用自体を変える必要がありました。
DB損害保険の補償企画チームがダッシュボードの閲覧にとどまらず、成果管理と分析までを一貫して行える運用体制をどのように構築したかを紹介します。
主な成果
- 10年以上運用されてきた分析環境を、実務で活用できる運用体制へ再構築
- 約700項目の指標を統合設計し、100以上のダッシュボードを構築
- DB損害保険および3社のグループ会社で、3,000名以上が利用可能な体制へ拡張
- ダッシュボード閲覧からAIデータ分析までをつなぐ「B-to-the-A(BIからAIへ)」を実現
- 現場インタビュー、1の位までのデータ整合性検証、全国の実務者研修を通じ、実務で使える環境を構築

導入背景|指標の一元化と実務で使えるデータ環境の必要性
DB損害保険の保険金支払部門にとって最初の課題は、現場の担当者を客観的に評価できる指標画面の整備でした。指標は複数のシステムに散在しており、総合的に理解するには特定の担当者の経験に依存していました。同じ指標を見ても担当者によって解釈が異なり、データの整合性確認にも多くの時間がかかっていました。
その結果、現場従業員に対する客観的な評価基準を設けることが難しく、組織として一貫した意思決定を行うことも困難な状況でした。とくに損害率管理においては、どこで影響が発生しているかの追跡が困難で、改善活動もデータに基づく体系的管理というよりは“勘”に依存する場面が多く見られました。
補償企画チーム K主任 :
”情報系の環境が非常に老朽化していたため、知っている人だけが使う環境に長く固まっていました。
そのため同じ指標でも解釈が分かれ、 管理や改善が難しいという問題が大きく、指標の観点を統一する必要がありました。”
このような背景から、DB損害保険が求めていたのは単なる指標参照環境ではありませんでした。特定の担当者に依存する分析体制を脱し、保険金支払部門の現場担当者から現場マネージャー、本社マネージャーまで、すべての関係者が同一基準の指標に基づいて損害率を管理・改善できる、実務に即したデータ活用体制でした。
ダッシュボードからAIデータ分析までつながるソリューション
検討された代替案はいくつかありましたが、選定基準は明確でした。
- 現場が直接使えること
- ダッシュボード閲覧を超えてデータ分析が可能であること
- 金融業界に適したセキュリティと運用体制を実現できること
この基準の下で、HEARTCOUNTの強みが際立ちました。本プロジェクトの中心は、BIからAIデータ分析へと自然につながる「B-to-the-A」の実現にありました。
数値を確認するだけでなく、それがなぜ導出されたのか、どの要素を調整すれば結果がどう変わるのか、特定時点で発生した異常値の原因は何かまで把握できてはじめて実務で使える環境になります。DB損害保険が求めていたのは、まさにそうした分析の流れが自然につながるデータ環境でした。
信頼して実務で使えるデータ環境の構築プロセス
プロジェクトは約1年にわたり進行しました。要件整理、設計、開発、検証、展開を段階的に進め、最も重視したのは現場が信頼して使える環境をつくることでした。
実務に根ざした指標を作るための現場中心ワークショップ
プロジェクト初期には運用担当者向けワークショップを皮切りに、保険種別・グループ会社ごとの現場インタビューを順次実施しました。対物・対人など、実際に業務を担う担当者を中心にヒアリングを行い、全体で20名以上の実務者が要件整理に参加しました。
ここで重要だったのは、単に画面メニューを増やすことではなく、「誰がいつ、どの指標を確認し、どのような判断をするか」を定義することでした。これにより、管理者視点の指標と現場視点の指標を分けて設計しました。
データ整合性の確保による信頼基盤の強化
本プロジェクトで最も時間をかけたのはデータ検証です。補償組織のダッシュボードは、値が少しでも異なれば信頼を失います。現場担当者は自分の数字をよく知っているため、一度でも表示が異なればそのシステムを使わなくなる可能性が高いのです。そこで定義されたクエリ結果と、現場が従来見ていた値を繰り返し突き合わせ、1の位まで一致させる検証を何度も行いました。
HEARTCOUNT 担当者
"値が違えば現場は二度とダッシュボードを見ない、という声がありました。 そのため、1ウォン単位、1の位まで合わせることに最も多くの時間を費やしました。"
既存システムとの連携を考慮した運用環境の実装
既存のデータ環境は導入から10年以上が経過しており、大規模なアップグレードは行われていませんでした。複数のシステムが同一のDBを共有しているため、新しい仕組みを付加すると性能負荷が生じやすい構造です。
これを踏まえ、HEARTCOUNTは繰り返しのクエリチューニングを行い、社内のデータベース担当者と協働してボトルネックを調整しました。さらに、頻繁に参照される領域にはキャッシュ戦略を適用し、パフォーマンスを改善しました。その結果、既存環境上で安定して利用できる構成を実現しました。
金融機関向け運用要件を反映した権限とセキュリティ設計
権限・セキュリティ設計も重要な要素でした。現場従業員は所属するセンターや組織のデータのみ参照可能にし、本社の管理者は全体実績を確認できるようロールベースのアクセス制御を設計しました。とくに損害率や件当たりのCOSTなどのセンシティブな指標については、より厳格なアクセス制御を適用しています。もう一つの特徴は分析環境の信頼性です。
HEARTCOUNTの分析機能は、外部LLMとの接続なしでも内部環境で利用できるよう設計されており、データの外部送信が制限される金融領域でも安心して適用できました。
導入効果|現状把握から成果管理、異常検知までつながる業務変革
統合ダッシュボードによる現状把握と業務効率化
管理者が最も頻繁に確認するのは日々変わる運用状況です。事故受付件数、処理件数、センター別の運用状況など主要指標を素早く把握する必要があります。以前は複数のシステムを行き来して値を集め、会議資料作成のために別途集計時間が必要でした。現在は同じKPI画面を基準として現状を即座に確認できます。会議準備が速くなり、報告の出発点も統一されました。
この変化は単なる時間短縮にとどまりません。以前は「どの数字が正しいか」を確認するのに多くの時間を費やしていたのに対し、現在は同一の指標を基にどの施策が必要かを議論する構造に転換しています。
シミュレーションを活用した成果管理の定着
現場担当者は自分の成果を日々確認し、それで終わりではありません。指標を少し変えれば結果がどう変化するかを、自らシミュレーションします。これは本プロジェクトの主要機能の一つです。
従来のダッシュボードが静的な情報参照に留まるケースが多い中、HEARTCOUNTはユーザーが入力した値をもとに結果を再計算してシミュレーションする構造を設計しました。つまり、現在の状態確認 → 目標調整 → 結果予測が一つの画面で連続して行えます。この構造により、ダッシュボードは単なる参照ツールではなく、成果管理のためのツールになりました。
現場ではセンター長がダッシュボードを見ながらスタッフの成果をその場で確認し、コーチングを行う場面が生まれています。
補償企画チーム 管理担当 :
"現場の担当者は、いつでも自分の成果を確認できます。 今の成果がこの水準なら、指標を少し上げることでどこまで改善できるかを データに基づいて考えるツールとして幅広く活用しています。"
AI異常検知による早期の課題把握と分析対応
実務では、ある時点で指標が急変する状況が頻繁に発生します。
従来はその原因を突き止めるために手作業の分析が必要で、原因特定に時間を要したり、一部の問題を見落とすことがありました。DB損害保険が求めていたデータ分析機能は、まさにこの課題の解決です。
HEARTCOUNTはAIを活用して異常兆候を検知し、その後に原因を段階的に分析できる流れを提供します。重要なのは、この機能が一部の専門アナリストに限られず、管理者が実務上の問題を迅速に察知して対応できるよう設計されている点です。

AIによる異常検知の画面例また、この分析は外部LLMに依存せず内部環境で利用できるため、金融業界でも安心して適用できました。つまり、「AI分析」がマーケティング用語にとどまらず、実際の運用で機能する分析機能として働いています。
DB損害保険の事例が示す実務型データ活用の方向性
システムの本稼働前には、保険金支払業務の運用担当者が全国の現場を直接訪問し、利用方法を案内しました。HEARTCOUNTはまず運用担当者向けの研修を行い、その後、運用担当者自らが各センターを巡回して現場ユーザー向け研修を実施するかたちで展開を広げました。
現在、このプロジェクトはDB損害保険の補償関連3本部と3社のグループ会社を含め、500名以上が実際に活用する体制へ展開されています。しかし本事例の本質は、単純な利用者数だけではありません。
最も重要な変化は、ダッシュボードが実務の中心に据えられた点です。
- 現状を速やかに把握し
- 成果を直接シミュレーションし
- 異常兆候を早期に検知して分析につなげる流れ
このような体制が整ったとき、ダッシュボードは単なる参照画面ではなく、日々の業務を動かすツールとして機能します。DB損害保険の事例は、その変化を明確に示しています。HEARTCOUNTが構築したのは、単なるBI画面ではなく現場が毎日活用する運用体制でした。