データ分析レポートの2つの書き方

データ分析レポートの2つの書き方

データが今日の疑問を解決する以上のものであるならば、事実の提供ではなく、意思決定者のmental modelを変えることに貢献できるようにする必要があります。

このページでは、
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このブログは以下の方におすすめです。
- 「データ」をレポートに活用したい方。
- 意思決定権者のインスピレーションを呼び起こす(ドーパミンを刺激する)レポートを作成したい方。
- 意思決定権者の追加質問にこれ以上困惑したくない方。

はじめに - デリダの差延 (差異と遅延)の概念

フランスのポストモダニズムの哲学者ジャック・デリダの差延(differance: 差異と遅延という意味でデリダが初めて作った概念)の話から始めたいと思います。

差延は、私たちがテキストを通して世界を解釈する方法に関する理論です。データレポートは、データというテキストの解釈という意味で、差延の概念が考える材料を提供してくれると思います。

差延とは、ある単語(a)の意味は他の単語(b)との差異によって規定され、他の単語(b)の意味もまた他の単語(c)との差異によってのみ解釈されるため、そうして生成された意味は必然的に遅延するしかないことを意味しています。

データ分析レポート作成の文脈に差延の概念を適用してみましょう。データレポートの作成は、最終的には自社の主要な経営指標を改善するための事実、知識、インスピレーションを生み出すための活動であり、レポートは指標の差異(時間の経過による差異、カテゴリーによる差異)を定量的に計算して解釈する作業に他なりません。意味(知識)は差異を理解することから始まり、差異は結局、他のものとの相対的な差異であるため、比較対象が追加されるにつれて、その解釈も継続的に遅延することになります。

ここまで読んで共感する部分がある場合は、データレポートを作成する伝統的な方法(以下の最初の方法)と、遅延による差異に対するオープンな解釈を提供する新しい方法について、以下の内容をお読みください。

第一の方法 - 意味の遅延なく自己完結的なインサイトを伝える方法

ここを見ると、過去にHEARTCOUNTのデータ教育プログラムである「データヒーロー」に参加した方々の様々なデータ分析レポートを確認することができます。

これらのレポートの共通点は、最後に「インサイト(Insight)」を提示している点です。しかし残念ながら、現実は1つの正解が存在しにくいオープンエンドの(open-ended)質問(なぜ? どのように?)に関するレポートの場合、(actionable) insightとして整理された内容が被報告者の共感と行動に変化をもたらすことは多くありません。

被報告者を含む私たちの世界に対する信念とその信念に基づく行動変化を、報告者(他者)が発見した事実と見解に変えることがそれだけ難しいからです。

System 1 vs. System 2 Thinking

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今年3月に逝去したダニエル・カーナーマンによると、即時かつ自動的に動作する「速い思考 (System 1)」と、合理的、分析的に熟考する「遅い思考 (System 2)」のうち、私たちはSystem 1の絶対的な影響の下に置かれています。

組織がより良い意思決定を行えるように支援することの目的は、特にデータを活用した意思決定について話すときに、System 2 (合理的思考)がより良く機能する根拠を提示することで、System 1 (経験と直感、Heuristics)の衝動的な気質を克服することだと言われています。直感よりもデータから発見したインサイトにもっと依存すべきであると、組織のすべてのメンバーがデータを使用して合理的に推論することに熟練しなければ、データの価値を実現することができないという主張が釘のように私たちの耳に刺さっています。

しかし、私はこのような主張は非現実的であり、このような(誤った)福音がデータを扱う実務者を挫折させる理由だと思います。

ダニエル・カーナーマンの核心的な主張は、私たちは結局、System 1の無意識の影響から逃れることはできないということです。組織内のすべての意思決定に論理的かつ分析的な思考を適用して結論に到達しなければならないという主張は、System 1の力を過小評価したロマンチックな話です。データ分析ツールがどんなに賢くなっても、分析レポートの「Insight」がどんなに珠玉の内容を含んでいたとしても、ほとんどの意思決定はSystem 1を通じて行われることになります。

System 1 and System 2 Thinking

第二の方法 - 意味を遅らせながら、意思決定権者のインスピレーションを呼び起こす方法

意思決定権者がビジネスを取り巻く世界の仕組みについての知識や理論(baseline mental model)を一度身に着けてしまうと、データ分析レポートが彼らの考えや行動を変える可能性は低いです。

データレポートを作成してその結果を報告する別の選択肢があると思います。System 1と戦うのではなく、System 1と連携する方法です。

データをテキストとして見た場合、データというテキストの問題は、データというテキストの外側に引きずり込まないと、データを適切に説明することが難しいということです。データには私たちが疑問に思っていることの断片が含まれているため、データを解釈した事実関係だけでは「自己完結的に」世界を説明することはできません。

データに対する解釈がデータというテキストの生来の限界で自己完結的でなく、データ外のContext(意思決定権者のmental mode)の中だけで完全に解釈できるのであれば、データレポート作成者が安易な結論を下すのではなく、意思決定権者が主体的に解釈できる道を開いておくことが、私が提示する第二のレポート作成方法です。

静物画のようなデータレポートではなく、生き物のように生き生きとしたデータレポート

そのためには、意思決定権者がレポートを通じて自分のmental modelを疑うようなインスピレーションの瞬間をもたらすことができ、インスピレーションの瞬間が誘発された好奇心(追加質問)にすぐに答えられる必要があります。1つの事実関係を含む静的なグラフの代わりに、追加質問(ad-hoc questions)に対して、レポートの現場ですぐに答えられるツールが必要です。

皆さんは、質問(今月と先月の売上の差異)に関してデータで回答して、追加質問(商品別の差異)で解釈が遅れるという経験は誰もが経験したことがあるのではないでしょうか? デリダが差延(differance)という概念を通じて、テキストの意味が新しい言葉(カテゴリー)の介入によって継続的に遅れることを示したように、売上の差異を、異なる商品、異なる顧客グループ、地域、またそれらの組み合わせとして解釈していくと、データ報告のプロセスは継続的に遅れるしかありません。

追加質問(ad-hoc question)に即座に回答し、定量的な事実(factoids)を提示する必要があります。以下のレポート作成の実習では、これがどのように可能かについて説明します。

実習を始める前に

実習を始める前に、Exploration Exploitation Dilemmaという概念とHEARTCOUNTのデータレポート作成問題に対するアプローチを簡単に説明します。

Exploration vs. Exploitation

「Exploration Exploitation Dilemma」は、(不完全ですが)既に知っている知識を活用する「Exploitation」と、新しい未知のオプションを試す「Exploration」、この2つの選択肢のバランスを求める問題です。例えば、私たちがレストランを選ぶ場合、既に行ったことのあるレストランを再訪すること(Exploitation)と新しいレストランを試すこと(Exploration)の間の選択に似ています。この2つの戦略の間で最適なバランスを見つけることは、長期的な報酬を最大化することを目的とする多くの意思決定問題において非常に重要な問題です。

データレポートにおいても、慣れ親しんだ視点(商品グループ別の売上差異)でレポートを完結させるExploitationと、 新しい視点(商品グループ×時間帯別の売上差異)で新たな事実を発見しようとするExplorationのバランスは重要です。

これまで実務者の役割とされてきた探索分析(Exploratory Data Analysis)が、意思決定権者にも許可されるべきだと思います。私たちの組織の長期的な報酬を最大化するためにmental modelが変わらなければならないのは、まさに意思決定権者です。

意思決定権者がデータを探索し、探索する過程を通じてドーパミンが噴出すること、脳の中に新しい回路がつながることを経験しなければなりません。データ基盤の意思決定が救済ではなくお金になる仕事となるためには、必ず必要です。

HEARTCOUNTでのデータ分析レポートの作成

データで実務者がやらなければならない仕事(Data Jobs-to-be-Done)を、データレポートを作成しなければならない生成型(Generation)業務と質問に素早く回答しなければならない Questions-Answering業務に区分することができ、それぞれの業務(Jobs-to-be-Done)に対するHEARTCOUNTのアプローチは下の図のようになります。

この中でデータ分析レポートの作成に関連する機能であるDialogueについて、より詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください。

Data Report Generation in HEARTCOUNT

下記の実習では、Excelを使ってEDAとDialgoueでいくつかの仮説を定量的に見て、Augmented Analytics機能を使って仮説を通じて発見したパターンの相対的な有用性を確認し、明らかでないパターン(unknown unknowns)を見つけて、追加質問(ad-hoc question)に即座に答えられるようにレポートに入れる過程をお見せします。

レポート作成実習

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実習ガイド
- データセット: HEARTCOUNTのサンプルデータセット(クリックで移動) > Insurance Dataset > sample insurance
- レポート作成ツール: notionを使用予定
- 分析ツール: HEARTCOUNT (ブックマーク機能を使用できるように、[アップグレード] ボタンをクリックして無料トライアルに切り替える必要があります)

上記のガイドに沿って、以下の3つの質問に対するレポートを作成してみます。

  1. 医療保険請求額の差異をもたらす主な要因を理解する。
  2. 保険請求をした顧客とそうでない顧客の特性の違いを理解する。
  3. 保険金を請求しない可能性の高い顧客セグメントを発見する。

(クリック) 4月26日のウェビナーで実習内容を確認してください。

おわりに - 「行動可能なインサイト」ではなく「知識の生産」

組織内でデータやデータアナリストの責務は何かと聞かれたら、多くの人が「行動可能なインサイト(Actional Insight)を提供することで、人々がより良い意思決定を行えるように支援すること」と答えます。

しかし、「Actionable Insight」は、映画「オールド・ボーイ」の「今日だけ手探りで生きていく」オ・デスという主人公を思い起こさせます。データが今日の疑問を解決することを超えるためには、事実の提供ではなく、意思決定権者のmental modelを変えることに貢献しなければなりません。System 1と戦うのではなく、System 1と一緒に働かなければなりません。偏狭で偏った思考を拒否するのではなく、偏りを精巧に最新の情報に更新する必要があります。

「特定の」状況で「特定の」パターンが発見されたので、「特定の」行動をとる方が良いという内容のレポートは、System 1を変えることはできません。なぜなら、その発見が新しい知識や理論ではなく、単なる偶然と見なすことになるからです。理論や知識は、人々に世界を異なった見方でみるように要求する力があります。理論は私たちを止めさせ、反芻させますが、断片的な事実とインサイトに私たち(System 1)は微動だにしません。

「行動可能なインサイト」の代わりに、世の中の知識や理論を伝えることが、上記の「追加の質問に即座に回答を提供できるデータレポートの作成方法」だけでは解決されないでしょう。しかし、私たちのデータレポートが新しい知識や理論の生成によって意思決定権者のSystem 1(直感的思考)を変えることができれば、その影響は大きいでしょう。データ分析が企業内で堂々とした存在意義を持つためには、それは私たちが最後まで諦めずに解決しなければならない問題です。

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