Literacy: カテゴリーの誕生
1930年頃、中央アジア(ウズベキスタンやキルギスタン)の奥地で文盲(illiterate)で暮らす人々に円と四角形を見せた。円を見て「皿、バケツ、時計、月」と答え、四角形を見て「鏡、ドア、家、板戸」と答えた。
文字なしで生きている人には、鍬、鎌、シャベル、つるはしなどを道具という概念でカテゴリー化できる思考(Categorical Thinking)能力が欠如していることを証明した実験だった。つまり、円や道具などのカテゴリー化(Categorization)を通じて具体的な物事や事象を抽象化するためには、文字使用能力(Literacy)が先行しなければならない。
物(Things)から言葉(Words)に、言葉からカテゴリー(Category)に、カテゴリーからメタファー(Metaphor)やロジック(Logic)に進むためには文字が必要である。口語は何の痕跡も残さずに大気中に落ちてしまうため、人の記憶によってのみ構造化することができる。文字なしで口語の世界(Oral Culture)に留まっていた人々(例えば、「オオカミと踊る」、「鳥を蹴る」、「拳を握って立ち上がる」などと呼ばれていた人々)は、真実(世界についての説明)を具体的な個別経験(Situational Thinking)に求めたが、文字の発明以降、人々は真実を個別的で具体的な経験ではなく、抽象化された文章(Abstract Reasoning)に求めるようになったのである。
楔形文字: エクセルの起源
文字が発明される前の人類は、先史時代の洞窟壁画のPictograph(絵文字)のように、具体的な出来事や経験に対する写実的な描写を通じて世界を記録し、説明した。
その後、紀元前3,000年頃、世の中が複雑になり、記録すべき情報量が増加すると、Pictographはくさび形の文字に簡素化され、情報がより効率的に保存、伝達できるようになった。
楔形文字は、情報の効率的な入力と保存のために人類が最初に考案したSpreadsheetなのである。
文字(カテゴリー)の誕生、信仰の誕生
言語が人間の先天的能力と言えるなら、文字は人間の発明である。プラトンの対話篇の中の「ファイドルス(Phaedrus)」で、プラトンはソクラテスの口から文字の発明が人の記憶力を衰退させることを心配した。
Socrates: “For this invention(=writing) will produce forgetfulness in the minds of those who learn to use it, because they will not practice their memory. Their trust in writing, produced by external characters which are no part of themselves, will discourage the use of their own memory within them.”
私たちは口承文学を暗唱することはできないが、プラトンの懸念とは異なり、文字以前の人類と比較して膨大な量の情報を概念、カテゴリーの形で記憶している。文字を得た人々は、具体的な個々の出来事や経験を通して世界を理解し説明するのではなく、直接的・間接的な個々の経験を抽象的な概念やカテゴリーを通して記憶し、その上で信仰を形成し、その信仰を通して世界を理解するようになった。見たもの、経験したものを信じるのではなく、概念化されたもの、カテゴリー化(一般化)されたものを信じるようになったのである。
Data Literacy: データを通して世界を見る眼差し
くさび文字は、増え続ける情報を効果的に記憶するための発明だった。現代のくさび文字であるエクセルは、記憶(記録)のためだけでなく、世界をよりよく説明するために使われることもある。
文字と言語を通じて世界を理解する人々の心(脳)の中に一度抽象化された信念が形成されると、その信念に反する過去の記憶は歪曲され、その信念と相反する新しい事実は無視される。人間が犯すすべての認知的エラーの父と呼ばれる確証バイアス(Confirmation Bias)が生じ、世界をありのままに見ることができなくなるのだ。
Literacyがテキストに含まれる世界をカテゴリー化、一般化し、抽象的な信念(観念)を通じて世界を理解させる素養であり、Numeracyが数字を通して世界を解釈できる能力であるならば、Data Literacyは世界に対する生の記録(Raw Data)からパターンを見つけ、世界に対するより良い(実用的な)説明を見つけることである。データを通じて世界を新たに見る目線なのである。
Data Literacyを通じて私たちの信念の誤りに光を当て、世界をより客観的、確率的に理解することができる。「狩猟の花はバイソン捕獲」がデータを通じて崩れる可能性もあるのだ。